音楽の夢を持っている人は多い。
しかし、その夢をかなえられる人は氷山の一角だ。
スポーツであれば、例えば100mを10秒前後で走る事ができれば、オリンピックに出るという夢はほぼ叶うが、音楽の場合はそういった明確なボーダーがない。
それを前提に、音楽で夢を叶えるという意味は、それでそれなりのお金が稼げる、ということになるだろう。
お金が稼げるというのは、音源が売れたり、ライブでの集客力があったりするということで、つまりできるだけたくさんの人に「共感」してもらう、ということになる。
ボーカルが何オクターブ以上の声域を持っている、ギターがかなり高速な速弾きができる、ということと、それが多くの人に共感を得られるか、つまりお金が稼げるかどうかは、直接的には関係ない。
(間接的には関係あるが、それを言い始めたらキリがない)
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音楽には音楽理論というものがある。
楽しげな音楽という分野においては、座学っぽいもので、よく毛嫌いされる。
しかし、音楽理論が全くない状態では音楽は成り立たない。
厳密に言えば、ドレミファソラシドという音名ですら音楽理論の知識だ。
ギターを学ぶ際に最初に学ぶ「コード」という概念(コードネームではない)すらも音楽理論だ。
しかし、音楽の夢を追いかけている人によく聞くのは逆の現象で、つまり巷に溢れている音楽理論書は隅から隅まで理解しているのが音楽のプロとしての最低条件、と思い込んでいる人も多い。
ちなみに、ここに書いているのはPOPSにおいての話。
プロになるのに最低限必要な音楽理論の知識は、目指している人に聞いた統計から自分なりに予想するに、明らかに多すぎるし、レベルも高すぎる。
つまり、そこまで学ばなくても良い。
音楽理論の場合は、知識量よりも、理解度の方がはるかに重要だ。
例えば、ある程度音楽理論を学んだひとならば知っている「セカンダリードミナント」というコード。
これを、
「ダイアトニックコードのいずれかのコードを”1”とみなしたとき、それに対するドミナントコードのこと」
ということを辞書的に暗記しても、ミュージシャンとしてのスキルアップには程遠い。
音楽は、それを使ったらどんな響きになるのか、ということを体感し、自分が曲を作る時などにどう活かせるか、が何よりも大切だ。
つまり、セカンダリードミナントという言葉の意味を知っているかどうか、というのはあまり意味をなさない。
逆に、よくみんなが悩む「モード」という理論。
JAZZ等に使われる理論で、理論書と呼ばれるものならば、ほぼ説明が書いてあるので、これも「難しいけれど最低限必要な知識なんだろう」と思われがちだ。
しかし、POPSにおいては、モードの知識を使うことはあまりない。
結果的にモードになっている、ということはあるが、それは結果論でしかない。
もちろん知識が大いに越したことはないのだが、これを知らない、理解できないというのとプロになれるのかどうかは、実はあまり関係ない。
実際に自分の周りにいるミュージシャンで、それで十分に食っていけているレベルのプロ達に、モードの理解、知識は最低限必要か、という質問をしたところ、80%以上が「NO」と答えた。
ついでに、上述したセカンダリードミナントの理解度が、プロの作曲家に比べてアマチュア作曲家は低いと思うか、という質問も、実に90%の人が「低いと思う」と答えた。
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音楽理論は、知識量よりも理解度。
知識を横に拡げるのではなく、縦に深く理解していく。
理解度をあげるためには、新しい知識を学ぶまえに立ち止まることも必要だ。