阪神大震災や東日本大震災など、大きな天災が起きてたくさんの方が亡くなったというニュースが出た時に、報道では死者数をもってその被害の大きさを伝えます。
それに対して、北野武さんが、
「たくさんの人が亡くなった事故が1回起きたんじゃない。
1人が亡くなった事故が同時にたくさん起きたんだ。」
といった趣旨のことを言っていました。
本当にそのとおりだと思います。
なぜ突然そんなことを書いたのかというと、昨日ある音楽業界の人に会って話していた時に、それを思い出すような内容が出てきたからです。
商業音楽においては、大切なのは売れることです。商業というくらいですから当然ですね。
しかし、その方は言います。
「みんなに愛される音楽というのは、誰にも愛されない音楽だ」
どいうことか、と思うでしょうが、つまりこういうことです。
「音楽なんていうはっきりとした尺度がないものにおいて、みんなに愛される音楽なんていうのはほとんど幻想に近い。だからそんなものを目指しても不毛。
たった一人の心を打ち抜くくらいの感動を与える音楽を目指すことが大切。
たった一人の感動量がとても大きいと、それが周りに伝播していく。それが、音楽が売れるという現象だ。」
私も音楽業界はそれなりに長いのですが、こういう言葉は自分からは発することができません。未熟ですね。
たくさんの人が亡くなった天災と商業音楽文化を同列に語ることはできませんが、考え方の構造は近いと思います。
ライブにおいてもそうかもしれません。これも確か誰かが言っていました。
ライブは
「1人(組)のアーティスト」対「たくさんのお客さん」ではなく、
(1人(組)のアーティスト」対「1人のお客さん」)×お客さんの数
と考えてやるべき。
なかなか芽が出なくて将来に不安を抱えている若いミュージシャンがたくさんいます。
ライブをやってもいまいち集客できない。
音源を作ってもさほど売れない。
動画をアップしても再生回数は思うように上がらない。
それは集客、販売、再生の「数」にとらわれすぎているのかもしれません。
数は力なので、重要であることは言うまでもありませんが、そもそもたった1人でも良いから、心を打ち抜くほどの感動を与えている音楽を自分達が奏でているか、と自問自答することも大切でしょう。
この段階での悩みは「数」ではなく「量」だったり「重さ」だったりします。
そもそも音楽を目指している人は、その昔心を打ち抜かれるほどの感動を与えられたから音楽の道を目指しているはずです。