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音楽、特に商業音楽は多くの人が親しんでいる文化です。 エレベーターミュージックという言葉があるくらい、少なくとも日本ではどこにいっても音楽が流れています。 プレーヤーのモバイル化で、その傾向はさらに加速しました。
これが何を意味しているかといえば、大衆の耳はかなり肥えいる、ということです。 聴き放題サービスでもダウンロードでも、町で流れているBGMも、大衆に届く音楽のほとんどはプロ「集団」が作った楽曲です。それらの楽曲が「標準のクオリティー」として大衆に届いているのです。
集団を強調したのには意味があります。音楽が大衆の耳に届くまでの過程では、実に様々なプロが関わるということです。 そのなかで大衆の目にうつるのは、第一にアーティスト、その次は作曲家や作詞家でしょうか。 しかし、アーティストや作曲家、作詞家は、大衆が聞いている音楽が完成するまでに関わっているプロ集団の大切な一部ではありますが、一部でしか無いともいえます。
では他にはどんなプロがいるのか。 そのためには音源が大衆に届くまでどんな工程があるのかを知ればわかります。 工程は以下です。
- 作詞/作曲
- 編曲
- 録音
- ミックスダウン(トラックダウン、ミキシングとも言う)
- マスタリング
これらの工程それぞれに、その道のプロがいます。 さらにさらに、実はこれらを全て統括するディレクターという人もいます。 音楽というちゃんとした尺度が定まってない世界だからこそ、どういう音源を制作するのか、ということを決める権限と責任を持っている人が必要です。さもなければ、主観の世界なので、関わる人が自分の意見を主張し始めてキリがありません。
さてこの中で、作業内容がわからないのはどれですか? そうです、4,5ですね。ここを担当しているのはエンジニアです。 録音が終わったら音源制作はほぼ終了する、4,5は最後の詰め程度だろうと思っている人が多い。 しかし、上記したように大衆の耳は非常に肥えています。この作業内容を具体的にしらなくても、この処理をしていないことによる、「なんか素人くさい」感を必ず感じ、それは販売数に確実に影響します。
で、ここが面倒なところですが、制作している本人たちは、その処理をしていない自分たちの録音を聞いても、素人くささを感じにくいものです。自分のことはなかなか見えにくい。 さらに、インディーズだとまず音源を周りの知人に配ったり売ったりすると思いますが、知人は「知り合い」ということを意識して聞くので、これまた素人臭さを感じ取る人は少ないし、もし感じても言える人は少ない。 そもそも、聞く人に比べてインディーズとはいえミュージシャンのほうが音楽には精通していることが多いので、聞く人の方がたとえ素人くささを感じても言いにくいものです。
ミックスダウンは、楽曲によって所要時間が変動しますが、日本トップクラスのエンジニアが担当しても、1曲あたり10時間くらいかかることはよくあるという世界です。 一流のエンジニアが10時間かかって行う作業が、最後の詰め程度のわけありませんよね。 繰り返しますが、これらプロによる長時間の処理がおこなれている楽曲を、大衆は「標準」だと受け取っているのです。
昨日も音楽ネタでしたが、少なくとも商業音楽で生計をたてていこうとしている人は、大衆をあまくみていると痛い目を見ます。 巷に出回っている楽曲のほとんどにミックスダウンやマスタリングの処理が施されているのに、自分たちの耳を過信して「そんな処理しなくても変わらんでしょ」と思い込んでミックスダウンやマスタリングの処理をしないという選択をするのは、大衆をあまくみていることにほかなりません。 全工程にプロが関わって制作された音源も、そうでない音源も、ほとんど同じ金額で購入できるのが音楽です。
ちなみに、
音楽で生計を立てていこうと考えはなく、ライフワークというくらいの感じで音楽に関わっているひとは、この限りではありません。音楽は誰がどんな理由でやっても良いのです。 ただ、その道でプロになりたい、生計を立てていきたいという目標を立てるのならば、誰からお金を頂くのか、ということを考え、その人たちの耳をバカにしてはいけません。 知識云々の前に、人としての最低限の礼儀です。