私たちが住んでいる町には海があります。
そこから船で10分ほど行ったところに、小さな島があります。
コンビニが一件もない小さな島で、こちらからは橋もかかっていないので、交通手段は船しかありません。
それがかえって、その島のお出かけ先っぽさを手伝っています。
そんなに遠くないけれども、船でしかいけない島と村。
雰囲気あるでしょう?
それを気に入ってか、私の友人がその島に家を一軒借りました。
借り始めは数年前のことです。
船着き場から歩いて10分強。家が山の中腹にあるので、到着間際に訪れる上り坂はかなりしんどい。
それも、お出かけ先っぽさを醸し出す役割をしてくれます。
友人が借りた家の隣に、なにやらレンガ作りの家があります。
いえ、家ではなく、いずれ家になるだろう建物といったほうがよいでしょうか。
ようするに、作りかけです。
友人にその家のことを尋ねると、いつも明るい友人は少し悲しげな表情で、
「あの家の持ち主は、もう帰ってこないらしい」
と言いました。
そのレンガ作りの家は、なんとおじいさんが1人で作りはじめたもの。
写真掲載は諸事情により控えますが、とても1人で作れるようなものではありません。
玄関、窓、屋根、柱など、一つ一つがとても丁寧に、しかも凝った作りをしています。
おじいさんのなにかしらのこだわりなのか、柱のいくつかには、何語かわからないポエムのような字が刻んであります。しかも、どれも別のポエムです。
ゲートから玄関までの間も、レンガをきれいに敷き詰めてあり、足場は都会にある住居の快適さと変わりないほどです。
私の友人が家を借りた当初、実はそのレンガの家は、一部しか見えなかったそうです。
周りを草木が覆っていたためです。
それは、となりのトトロに出てくる家のような雰囲気だったと言います。
近所の人にその家のことを尋ねて、上に書いたように、おじいさんがひとりで作っているということを教えてもらった、というわけです。
と同時に、そのおじいさんが今は病気で入院中、退院することはできない病だ、ということも教えてもらったそうです。
友人は直接おじいさんに会ったことはありませんが、人伝にレンガ作りの家の掃除をしてよいかを尋ねてもらい、許可をもらいました。
この時点では、ちょっとした好奇心だったそうです。まだその全貌が見えていなから、当然その程度なわけです。
が、それが使命感のようなものに変わっていきます。
周りの草木を切っていくと、そのレンガ作りの家がとても丁寧に作られている、と気付いたからです。
私は、すでに草木がとりのぞかれた状態で見たのですが、それはおじいさんが趣味でなんとなく作ったという次元のものではないのは間違いありません。
なぜそんな家をおじいさんが1人で作り始めたのか、そこにはどうやら深い理由がありそうです。
まだ作りかけのレンガの家。掃除、整理くらいまではできましたが、さらに家造りを続けるとなると、相当の覚悟がいりそうですが、友人は気長にやってみる、ということです。
自分が住むわけでもない、誰も住まないかもしれない家を造ることは、生産的とは言えないかもしれません。
でも、なんかこういうのって良いですよね。