お題その2「今年、買ってよかった物」
せっかくなのでこのお題にのってみる。
物、に含まれるかどうかわからないが、この本だ。
タイトルが難しそうで、装丁も堅い感じだが、文章は非常にわかりやすい。
ただ、買ったのが今年なだけで、発売は今年ではない。
内容はルソーの一般意志からくる哲学的な考え方を現代人がどう読むか、ということ(かなり大雑把なまとめ)だ。
その内容は素晴らしいし、考え方にも共感できる。改めてルソーの本も読んでみたくなった(人を動かすコンテンツは、例外なく素晴らしい)
しかし、自分がこの本で最も感じたことは、こんなに難しそうなことを、なんとわかりやすい文章で、しかも質を落とさず表現できるものだ、ということだ。
考えてみれば、自分が好む作家(フィクション、ノンフィクション問わず)は、この共通点がある。
分かり易いが、質は高い。
言うは易し、行うは難しだ。
自分などは、その全く逆になっていて、つまり「簡単なことを難しそうに書いて」しまっている。
ノンフィクション作家が物語を創造することに長けていたり、ジャーナリストや思想家の知識が豊富だったりすることは、プロとしてある意味当たり前かもしれない。
しかし、それらを文章を使って伝える技術は、そこに注意を払っていないと上がらない。
それは、作家に必要な技術の一部であるとはいえ、おろそかになっていると思われる本も多々見受けられる。
結局、文章にして世に発表するということは、読む人ありきということで、それは伝わらないと意味がない。
実は、これは音楽にも非常に似ていることが言える。
音楽も、楽器演奏を習得する過程で、その技術だけに固執してしまう時期がある。
そこに抜けているのは「リスナー」スタンスだが、おそらく楽器演奏を始めたその瞬間から、100%リスナースタンスで音楽を聞くことは不可能だ。
だから、想像力(創造ではない)を鍛える。
演奏家としての自分ではなく、リスナーはこういうことを感じる「はず」だ、という想像力。
この想像力は、楽器演奏の技術向上だけに固執しているだけでは決して上がらないもので、ここが優れたミュージシャンになれるかどうかの、一つの分岐点になる。
当然、技術が向上しないことの口実がこれになってしまってはいけない。
もう一度この本に話を戻せは、この本はまさに「質」と「わかりやすさ」が両立している本で、筆者である東浩紀氏の「知識」と、「伝えるための文章力」の両方を感じることが出来る本だ。
難しいことを理解できるようになるためには、難しい本を読まなければならない、という固定概念を覆してくれる本になっている。
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