たまには音楽の話もしましょう。
とりあえず本職なので。
音楽を聞いている人が、その音源に違和感を感じず、「普通に」聞こえる、というのは、実は音源を制作する側の技術が光っているということです。
どういうことでしょうか。
例えば、ある曲のAメロにおいて、ボーカルが囁く様に歌っているとしましょう。
囁く様に歌うと、単純に音量が小さくなりますね。
しかし、ちゃんと歌詞も聞き取れます。
後ろでドラムやらギターやらシンセやらがガンガンなっていても、囁き声が歌詞まで聞き取れるようにするためには、囁き声の音量を大きく調整しなくてはいけなくなります。
しかし、Bメロ、そしてサビとなると、ボーカルが叫ぶように歌うようになります。
先程の囁き声を基準に音量を調整してしまうと、サビでは逆に音量が大きすぎてバランスが悪くなります。ボーカルの声しか聞こえなかったり、音量の上限を超えてクリップ(音が割れること)したりします。
じゃあ、一番ボーカルの音量が大きいところを基準に調整となると、囁き声のところはほとんど聞こえなくなります。
囁き声と叫ぶ声ほどの差はなくても、一曲中でボーカルの音量が変わるのは当然ですし、むしろ変わったほうが感情的なニュアンスも表現されていて良いものです。
ではどうするのか。
これを解決するのが、音源制作におけるミックスダウンやマスタリングという作業です。
メジャーの音源では、ミックスダウンやマスタリングをする専門のエンジニアがいますが、この人達の作業はなかなか一般の人には知られていません。
ボーカル、その他を録音している風景はテレビなんかで少し映ったりしますよね。
録音までは想像しやすい。
しかし、そのあと音源になるまでには必ずミックスダウンやマスタリングという工程を踏みます。
これにはかなりの技術、知識、時間を要します。
どんな作品かにもよりますが、一流のエンジニアがかなりのスピードで作業しても、1曲で10時間近くかかることは普通にあります。
話がそれましたが、先程の音量の問題をどう処理しているのか。
それは、
ある音量以上に大きいところの音を、適切な圧縮率で圧縮、つまり小さくして、上限値までに余裕をもたせ、その分全体をあげる
ということをします。
上の例で言えば、サビの叫んでいるところの音量を圧縮して、囁き声のところでもしっかり聞き取れるくらいまで全体を押し上げる、ということです。
これは言うが易し行うが難しで、そのためのソフトや機材を使いこなすのには熟練の技や耳が必要になります。
下手な人がこれをすると、それが違和感につながります。
つまり、普段曲を聞いていて違和感がないけれど、歌詞もちゃんと聞き取れるというのは、実は素晴らしい職人の技が光っているということなんですね。
ちなみに、こういう処理をする機材やソフトはコンプレッサーと呼びます。
コンプレスは「圧縮」という意味ですが、音楽機材(ソフト)におけるコンプレッサーは圧縮した後に全体を押し上げるために使います。
圧縮しただけでは、音が小さくなってしまいます。
コンプレッサーは、ほとんど全ての楽器にもかけますし、全体にもかけます。そうやって、全体の音量を少しでも大きくする工夫がなされています。
今一度お持ちの音源を、1曲通して聞いてみてください。
そこには、職人の技がとエネルギーがしっかりと詰め込まれているはずです。