多分日本だけではありませんが、基本お金を出す方ともらう方のパワーバランスは、お金を出すほうが上です。 本当は、お金と何か(ものだったりサービスだったり)を交換するわけなので、差はないはずなんですが、お金の汎用性の高い使いみちを考えると、そういうパワーバランスになってしまいます。 これが行き過ぎると拝金主義になっちゃいますけどね。
しかし、だからといってお金を出している方は、どんな要求でもつきつけて良いのか、となると、そうはいきません。
例えば飲食店でお金を払うのはお客さんですが、調理途中のものでも良いからすぐに出すようにお願いしても、受け入れてもらえないと思います。 調理途中ということでは、そこにかかっている原価や人件費は同じか、時間短縮になるのでむしろコスト全体は下がります。 しかし、それでも断られるでしょうね。
なぜか。
それは、一言で言えば提供側のポリシーです。 そして、このポリシー軽視はやはり、拝金主義に繋がります。
これと同じようなことが、音楽では結構起こります。
例えば、音源制作過程で、トラックダウン(ミックスダウン)という作業工程があります。 簡単に言えば、ボーカル、ギター、その他たくさんのトラック一つ一つの音質、エフェクト、定位、音量などを決めていく作業です。
この作業、5分くらいの一般的な曲であっても、8時間くらいかかるのは普通です。
この作業を初めて知る人は 「なんで5分の曲の調整に8時間もかかるんだ!?」 と疑問を抱くので、その結果 「そんなにこだわらなくても良いから、1時間くらいで終わらせてくれ」 という要望になります。
わかりますか? 上記の飲食店と同じです。
トラックダウンをしているエンジニアというのは、普通にやったら8時間かかるものを1時間でやれ、と言われた場合、様々な作業を省く必要があります。 もちろんその分だけ質も落ちます。
で、仮にそのまま音源が発売され、そのクレジットにエンジニアの名前やスタジオの名前が載ったとします。 それを買った人は、 「通常なら8時間かかる作業を1時間でやったんだ」 なんて思ってくれません。 もちろん、そのことをクレジットに書くはずもありません。
(プロアマ問わず)ある程度耳が肥えている人が聞けば、その質の悪さはすぐにわかるので、 「このエンジニアのスキルはこんなもんなんだ」 と判断されてしまうわけです。
これによって失う信頼は馬鹿になりません。
こういった理由により、プロ用のスタジオの多くは、一見さんをお断りしています。 その辺の事情がわからない人に説明するのが難しいからです。
「お金はいくらでも払うから、言うとおりにやってくれ」
といったお客さんが一番困るのです。
そう考えてみたら、音楽の世界は拝金主義ではなく、作品至上主義になっている、とも言えますね。