現代の「教養」とは、そもそも何なのでしょうか?
『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』は、情報があふれる時代において「手っ取り早く学ぶ」ことの意味や危うさを深掘りしている本です。
学ぶことの本質とは何なのか。
そんなことを考えさせられる一冊です。
教養とは、そもそも何のためにあるのか?
昔は、教養は「知的なステータス」としての役割を持っていました。
異性の気を引くためのツールや、社会での立場を示すための手段として使われていたそうです(竹内洋『教養主義の没落』)。
しかし、現代では「成長」や「成功」といった目的のために、効率よく短時間で学ぶことが重視されています。
その一方で、村上陽一郎の「慎みがあることこそ教養である」という考え方とは、かなりズレてきているとも言えるでしょう。
「ワンチャン」「コスパ」が示す時代の空気
ネットスラングを通じて、世の中の価値観の変化を読み解くのも本書の面白いポイントです。
たとえば「ワンチャン」という言葉は、「がんばれば報われる」という昔の考え方が崩れた時代の感覚を表しています。
また、「コスパ」という言葉の検索量が15年間で約5倍に増えていることからも、知識の獲得にまで効率を求める人が増えていることがわかります。
インフルエンサーと「学び」のビジネス化
最近では、中田敦彦さんやDaiGoさんのようなインフルエンサーが「ビジネスパーソンに必要な教養」といったテーマを発信しています。
しかし、本書では彼らが「本当に学びを社会に還元しているのか?」という視点で批判的に考察しています。
特に、ビジネス書を鵜呑みにすることで逆に悩みを深めてしまう人がいることや、「市場評価が可視化されることで、スキルアップを強いられる構造」が、学びの本質を歪めているという点が鋭く指摘されています。
「成長」が目的化してしまう問題
本書が指摘するのは、「なぜ成長したいのか?」という問いが置き去りにされ、「とにかく成長しなければならない」という風潮になっていることです。
千葉雅也さんの『勉強の哲学』に登場する「欲望年表」の話を引用しながら、新しい知識を得ることとは「これまでの常識を更新すること」だと説いています。
「ファスト教養」から抜け出すには?
最も大切なのは、インフルエンサーが提供する「これが正解!」という情報をそのまま信じるのではなく、「自分にとって本当に意味のある学び」を見つけることです。
本書は、批評の役割とは「正解を示して安心させることではなく、考えさせること」であると強調しています。
まとめ
『ファスト教養』は、現代における「知識のあり方」を考え直すきっかけをくれる本です。
効率よく学ぶことが重視される時代ですが、それが本当に意味のある学びになっているのでしょうか?
「10分で答えを知りたい」と思う前に、「そもそもなぜ学ぶのか?」を考えてみることが、教養を深める第一歩なのかもしれません。